2016 冬の奥琵琶湖キャンプツーリング



シーンと静まりかえり、まるで鏡の様な凪の中、パドルが水をかく音だけが辺りに響く。水を掴み、手前へとたぐり寄せた分だけ、僕の乗ったカヤックは前へと進む。 波風も無く、外乱の影響を受けない状況では、カヤックという乗り物は極めてシンプルだ。
漕いだ分進む。右、左とパドリングを繰り返すごとに、カヤックのバウ(舳先)は面ツルの湖面をスゥ〜っと切り裂きながら、滑らかに、滑るように進んでいく。


一年を通じて、なかなか無い程のベタ凪の奥琵琶湖。そして、遠く沖へと目をやると、気温と水温の差から生じる靄が幻想的に広がる。 


パーフェクトコンディションだ。 






数年前、長い冬をただ指をくわえて過ごすのがもったいないと、仲間と始めた冬の奥琵琶湖キャンプツーリング。初めて行った真冬の奥琵琶湖の静けさと、真っ白な雪と、澄んだ湖北の透明度の高い湖水に魅了され、昨年も企画したんだけど、あまりの雪深さに漕ぎは断念し、寒空の中、こぢんまりと湖岸でキャンプして終わった。

そんな真冬の奥琵琶湖キャンプも3度目を迎えた今回。想いと旅を共有できる仲間も増え、フェザークラフト乗りが8艇揃って船団を組み、澄み渡る湖北に艇を浮かべた。

冬に浮かぶというのは、温かいシーズンに比べ遥かにリスクが大きく、それは閉ざされた琵琶湖といえども例外ではない。先日、アウトドア界のトップブランドであるノースフェースの創始者の一人であり、数々の先鋭的なエクスペディションをこなしてきた有数の冒険家であるダグ・トンプキンス氏が、アルゼンチンとチリの国境にあるへネラル・カレーラ湖でカヤックでの冒険中に沈脱し、低体温症で亡くなるという悲しい事故があったばかりだ。


細心の注意と万全な準備を整えるのは言わずもがなである。


ひと桁の水温と色彩の乏しい冬の琵琶湖。一度牙を剥けば、洒落では済まされない厳しさでパドラーに襲いかかるのだが、こと、今回に至っては、(僕の)日頃の善行のおかげだろうか、漕ぎの神様は我々を歓迎してくれたようだ。


奥琵琶湖の最深部から漕ぎ出す。 




もともとまばらな民家が完全に途絶え、湖岸に続く車道も途切れ、静寂とモノクロームな世界の中、曇天を写しこんだ湖面を優しく切り裂いて漕ぎ進んでいく。


折しも前線を伴った低気圧が、日本列島を横断していく最中の奇跡的なベタ凪ぎのコンディションに、一同安堵を浮かべるも、そうは問屋が卸さない。

予報通り、漕ぎ進むにつれ、南東の風が吹き始めた。

頭上には分厚い雲が覆い尽くし、時間とともに強くなる向い風に負けじと立ち向かうも、沖合は見てわかる程、湖面が毛羽立ちはじめているのを確認し、南東の風を遮る岬の影にバウを向ける。


人の気配が全くない静かな湾。

木立の間に、タープと数張りのテントが張れるポイントを見つけてパドルをおいた。 







パラパラと降り始めた雨は、ビバーク設営の最中にも容赦なく勢いを増していく。叩きつけるような雨の中、それでも、旅慣れた仲間達はサクサクとタープを張り、石でかまどを作り、火を起こす。数刻後、すっかりテント村と化した無人の湖岸に焚き火の煙が立ち上り、牡蠣の焼けるいい匂いを合図とばかりに、酒や肉、カニに汁に米・・・etcが次々と僕の胃袋におさまっていく。


この気取り気がない、ワイルドな外飯は、何を食っても実にうまい。


当然、共通の趣味を持ち、同じ価値観を共有する仲間同志。盛り上がらないわけもなく、夜は更けていった。






翌朝、ふわふわヌクヌクのシュラフの心地よい暖かと、膀胱の切実なる叫びとの激しく長い格闘のすえ、渋々テントのジッパーを開け外に這い出す。


用を済ませ、何気なく視線を湖面へと送り、あまりの美しさにしばし固まる。


まるで空気が無くなってしまったかのようなクリアな視界の中、薄い雲のベールに朝日が包まれ、優しい光が鏡の様に静まり返る湖面に降り注ぐ。あまりの景色に見とれていると、ツルリとした水面の上を、まるでドライアイスの煙のような朝靄が滑りながら広がっていき、気が付くと、僕は白乳色の世界に佇んでいた。




ここに来られて良かった。





身体を休める事も、休日の有意義な過ごし方だとは思う。ソファーに寝転び、好きな映画を観ながらポテチを頬張るゆるい休日も、僕は好きだ。ちょっと反抗的な息子とバイクやギターの話で盛り上がったり、かわいい盛りの娘とじゃれあったり、ママちゃんと次の旅行の予定を立ててワクワクしたりする時間も心から大切に思う。


でも、時々、日常とはかけ離れた、非日常に身を置く事で、心が洗われ、明日への活力となることを、僕達旅人は知っているからこそ、適度に暖房に効いた心地良い部屋を飛び出して、こうやって旅に出るのだろう。




これだから、旅がやめられない♪



今回のキャンプツーリングは、漕ぎこそたかだか往復2時間程度ではあったし、天気もどんよりだったし、雪なんて全く無かったけど、最高に充実した2DAYSだった。


また、近いうちに、どこかを旅しようぜ〜!

コメント

人気の投稿