剱岳 -便の記-


先日、「立山連峰制覇…なるか?!」という記事で、剱岳に登るって書いたんですが、その後どうなったの?って、気になる人は皆無だとは思いますが、まぁ言っただけと思われるのも不本意なので、YAMAPの活動日記で書いた、その後の顛末を転載しておきます。

行動の詳細等が気になる方は、YAMAPをご覧いただければと思います。


☆☆☆


スマホのアラームが鳴る。am2:40。

今、僕は剱沢キャンプ場の一角の小さなテントの中。薄いシュラフにくるまりながら、このまま安眠を貪りつつ夜明けを迎える理由を必死に探している。周囲からは早朝出発を目論む生粋の登山者達が、粛々と準備を進める音が聞こえてくる。

意を決してテントのジッパーを開けると、空には満天に瞬く星々が、僕の53才(ごじゅうみっちゅと読む)の誕生日を祝ってくれている。

そう、何を隠そう、今日は僕の誕生日で、何をとち狂ったのか『バースデー剱岳』を達成するために、この山深い剱沢で幕営していたのだ。


「あ〜、仕方ねぇ。行くか。」


支度を整えて、真っ暗なトレイルを歩き出す。

剱沢小屋まで下ると、闇夜に浮かぶ剣山荘が見える。その先に、一服剱に登る登山者のヘッドライトが連なっていて、客観的に見るときっと美しい光景なんだろうけど、今の僕にとっては、まるで地獄へと続く道にしか見えない。



重い足取りのまま、剣山荘の裏から剱岳登山口へと歩みを進める。いよいよ別山尾根への取り付きとなり、普通の登山者ならば武者震いの一つでもするところだろうけど、稀に見るチキン野郎の僕にとっては、その一歩一歩があの世へ続く歩みにも似た恐怖心に囚われていた。

一番鎖場をなんとかやり過ごし、闇を照らすヘッドライトの明かりだけを頼りに上へ上へと歩き続ける。そんな中、その山頂までの険しい道程を思う不安と呼応する様に、僕の下腹部の違和感が徐々に増してくる。

ちょっとまって…今はヤメて。こんなところでもよおしても、取れる手段は極めて限られている。近所の低山や里山ならば、ちょっくら茂みに分け入って用を足すこともできるけど、ここは国内でも稀有な急峻さを誇る剱岳の稜線上。ハイマツの茂みに分け入ったとして、その下に地面がある保証は無い。


ならば…漏らすか?

いやいや、まさかのバースデイおもらしって、なんのプレイやねん💦


緩急をつけて襲ってくる便意。そんな僕の危機的事態への一切の配慮のカケラもない険しい道。急峻なガレ場が続く登山道なので、足場の石を下に落とすと、後続の登山者にはかなり危険だし、便を下に落とすと、ある意味もっと危険な状況となる。



全神経を両手と両足、そしてお尻に集中させつつ、やっとの思いで一服剱へと辿り着いた。そこで見た、恐ろしく険しくそそり立つ前剱の絶壁。そして前を行く登山者が、這う様に登るヘッドライトが一条の光跡となり、とてつもない岩峰に取り付く様を眺めながら呆然とする。


『これってまさに、前門の虎・後門(肛門)の狼・・・やん。』


そして、この一服剱は、本峰の剱岳へのスタート地点のようなものだという事実に愕然とし、膝から崩れ落ちるのでした。




その後、肛門の狼をなだめすかしつつ、果敢に前門の虎と格闘した話は、あまりにも長くなっちゃうので割愛しますが、微妙に間に合わなかった前剱からのバースデーご来光を経て、今まで生きてきた中で、恐怖体験ワースト5には入るだろうカニのタテバイを含む極めて激しい緊張感連続な岩陵帯を経て、無事剱岳のピークを踏むことが出来ました♪




いやぁ〜、マジ剱岳、イカれてるわ(笑)


☆エピローグ☆

今回も晴天に恵まれた山旅。いつもの如くいい感じで日焼けして、さらに真っ黒になった僕。帰りの室堂からのバスの改札で、乗車券のQRコードを読み取ってもらうんだけど、前から順番に

「ピッ!ありがとうございました。」って流れなんだけど、僕がチケットを出した時だけ、「ピッ!サンキュー。」って・・・。

いや、確かに黒いし無精髭も生えてるけど、俺、生粋の日本男児だからっ!



ではまた♪

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