Feathercraft Heron(ヘロン)
僕がフェザークラフトを手に入れてから3年と少し。まだまだ未熟なパドラーであることは十分に自覚してはいるが、3年一区切り。 すこし、愛艇ヘロンについて書いておこうと思う。
<Feathercraft Heron>
全長5.4m✕全幅61cm。質量24.5kg 最大積載量185kg。
バリエーションの多いフェザークラフトの中にあって、ソロ艇では最大級のサイズとキャパシティを誇る、外洋での長期遠征を視野にいれたエクスペディションモデルである。
ヘロンが生み出されるまでは、フェザークラフトを世界屈指のファルトメーカーへと導いた名艇<K1>が最大のモデルであったが、このヘロンはそれよりも40cmも長く、2.5cm細い。
つまるところ、フェザークラフト社の社長、ダグラス・シンプソンが出した、エクスペディションの究極の回答がこの艇なのだろうと思う。
「世界中、どこでも漕げるカヤックを準備しました。あとは、アナタの腕と度胸次第です。」
ヘロンを漕いでいると、ダグにそう言われているような気がしてならない。
先日のフェザークラフトミーティングで、ダグが各艇のインプレッションをした際のヘロンに対する情熱は特別な物に感じたのは、オーナーの贔屓だけでは無かったような気がする。
特に、ヘロン(鷺)の名の由来ともなっているクリッパーバウ(舳先がツンとつきあがった形状)のフレームの曲げは、Sの字に曲がっただけの単純なパイプ形状の見た目とは裏腹に、8ヶ所のベンドポイントがあり、ダグにしか作ることが出来ない唯一のパーツらしい。
3年半前に、フェザークラフトを買おうと決意した時、その艇の選定では非常に悩んだ。 週末パドラーな僕にとっては、ヘロンという艇は完全にオーバースペックであり、デイツーリングや、1泊のキャンプツーリングが主な僕にとっては、もう少し小さな艇のカフナやウィスパーで十分だという思いがあった。
それでも、僕はヘロンを選び、共に3年間を過ごした。
1年目はフェザークラフトに慣れるため、デイツーリングを主体に琵琶湖や能登島などの近海を漕ぎ、少し慣れてきた2年目は、衣食住をカヤックに詰め込み、若狭横断や瀬戸内海のしまなみを漕いだ。
そして、3年目の今年は、仲間と共に、エスケープルートのない20kmの島渡りを完漕し、以前からの念願だった奄美・加計呂麻の無人島を7日をかけて漕ぎ渡る旅にも参加する事ができた。
シーカヤックを始めた頃は、休み休みでも5キロを漕ぐ事が大変だった。 初めて近場の海で、沿岸部を10キロ漕いだ時なんかは、自分がえらく大きな存在になった気がしたもんだが、今では25キロくらいなら、海況にもよるがそれ程苦もなく漕げるようになったし、その気になれば30~35キロは大丈夫だろう。
そうやって、ヘロンと共に成長する蜜月の日々を過ごしている。
では、遡って3年前にヘロンではなく、カフナやウィスパーやK1を選んでいたらどうなっていたのか?
これは断言できるが、きっと、どの艇を選んでも性能的に後悔することは無かったと思う。
モデル選択時、カフナは安定しているけど、ウィスパーの方が操る楽しみがあり、長い分早い・・・だとか、K1よりヘロンの方が漕ぎは早いけど、安定性は無い・・・などなど。
カタログを舐めるように読み、各方面のブログやインプレッションを渡り歩き、各モデルを色々検証してはあーでもない、こーでもないと思い悩んだあこのろ。(今思い返しても楽しい時間ではあったが)、そして実際に、この3年、色んな状況で、いろんなスキルの人と、フェザークラフトのカヤックを漕いできた経験を通じて感じた事に基いて、あえて誤解を恐れずに言い切ってみるが、
カヤックはスペックではなく、漕ぎ手の能力が最大のアドバンテージである。
カフナやウィスパー。時にはKライトの様な小型なカヤックであっても、漕げる人が操ると、自由自在で早い。一方、フェザークラフトの中にあっては高速艇を誇るヘロンではあるが、ヘタレな僕が漕ぐとすっかり置き去りにされてしまう。
つまりは、そういう事だ。
ただ、折角のヘロンユーザーである僕なので、ヘロンを選ぶメリット、デメリットをいくつか書いておこう。
<メリット>
- 積載量、巡航スピードもさることながら、折りたたんで国内外を問わず持ち運ぶ(送る)事ができるという点において、世界最強の遠征用シングル艇であり、それを所有する喜びを存分に噛みしめることができる。
- キャンプ道具一式を懐に収めてもなお、余裕あるキャパシティ。コクピット後ろのデッキバーを一本抜けば、シアトルスポーツのソフトクーラー25qtがハッチから出し入れ出来る。
- 荷を積んだ時は喫水線が上がり、エアスポンソン(両側の浮力体)がしっかりと水に着き、直進性・安定性が上がり驚くほどの漕波性能を見せる。
- 逆に空荷の場合は、喫水線が下がり(艇が浮き)、パドル操作やリーンにクイックに反応し、軽快な一面を見せる。
- 荒れた海況の波間で先端が波に突き刺さることなく切り裂いていくクリッパーバウ。この舳先は日本の漁船の舳先の形状からインスパイアされたらしい。
- 艇長があり、スピードが出る(らしい)が、そんな事よりも、水に浮かべた時に、人とカヤックの大きさのバランスがよく、写真映えがする。(多分に主観)
<デメリット>
- 少し高いが、世界最強の遠征艇と考えれば納得がゆく。(というよりも、納得するしかない)
- 剛性を確保し全長5.4mを実現するために、フレームパイプが太いので、K1・カサラノより少し重く、カフナ・ウィスパーよりもだいぶ重い。
- 当然、パッキング寸法も大きくなるため、収納袋に入れた時、他の物(ポンプやPFD)をあまり入れることが出来ない。とはいえ、パッキングに慣れてくれば、漕ぐ為の装備(パドル除く)を全て収めてしまう事はできるようになる。しかし、宅急便で送る場合は重量やサイズ制限で引っかかる場合があるので要注意。
- 艇高があるため、特に空荷の強風時は風の影響を受けやすい。また、同じ理由で再乗艇は慣れが必要。
- 「お前みたいなド素人に、ヘロンなんて不相応だろ?!」っと、周囲から言われている気がする事がある。(完全に妄想のたぐい)
こういったメリット・デメリットは、どのカヤックを選択した場合も大なり小なりある。そして、どれを選択したとしても、他に目移りしてしまうのがフェザークラフトの恐ろしいところだろう。
では僕が、もしこの3年の経験を元にして、もう一度自艇を選ぶとしたらどうだろうか・・・。
な・・・悩ましい。 ぶっちゃけ苦悩のすえ、吐き気を催すほど悩む事になるだろうが、やはりヘロンを選ぶだろう。
僕の今のパドリングスキルでは、どれを選んでもさほど変わらないだろうと思う。つまり、今の僕のスキル(技術的にも精神的にも)よりも、艇の性能の方が大幅に上回っているからだ。
しかし、いつまでもそうであるとは思わない。っというか、そうであってはいけない。
少しづつでもいいからステップアップの階段を登って行く。そうしていつの日か、僕の黄色いヘロンが、よりタフな状況において、すこぶる頼もしい相棒になっていてくれるはずだと信じている。
あえてもう一度。
「世界中、どこでも漕げるカヤックを準備しました。あとは、アナタの腕と度胸次第です。」
全ては、僕の中にある!