しまなみ3DAYSトリップ ②



iPhoneの目覚ましが鳴る。寝ぼけながら薄目を開くと、テントの黄色いインナーが目に入る。11月も下旬となれば、いくら温暖な瀬戸内とはいえ朝は冷え込む。

テントのジッパーを引き上げ、フカフカのダウンシュラフに包まれながら、朝日が昇る海をぼんやり眺める。

『旅って、いいな。』

心からそう思う幸せな時間。




思い切ってシュラフを抜け出し伸びをすると、フツフツと湧き上がる今日の旅の予感に心が高揚してくる。 バーナーで湯を沸かし、パンを熱いインスタントコーヒーで流し込む・・・。 そして、舌を火傷する・・・_| ̄|◯

今日は追い潮に乗って、ドーンと西へ30km進む予定。

各自カヤックへのパッキングを済ませると、しまなみの海に漕ぎ出した。

正午あたりの干満の転流までは、向かい潮を漕ぎ上がらねばならない。気持ちを引き締めて大久野島北端の岬を越えた瞬間、満ちて迫ってくる潮流にあっけなくバウを持っていかれる。 潮流の早さでは国内随一を誇るしまなみ。まるで歯がたたない。

流れが比較的ゆるやかな岬の影をなんとか漕ぎ進み、サクッと潮待ちの停滞を決める。 




この大久野島は大戦中、科学兵器製造の拠点として毒ガス兵器の工場があり、地図からも消されていたらしい。本土の海沿いを走る汽車も、この大久野島付近では海側のシャッターを下ろして走っていた事からも、徹底した機密ぶりが伺える。

そして、そこで働く工員はもとより、近隣の島に住む住人も、徹底した緘口令が敷かれていた。

ガスの後遺症で工員や近隣住民が、戦後も長く苦しめられたという悲しい歴史が刻まれている島。

島内にいたる所にウサギが棲み、今では遊びに来る観光客を癒してはいるが、その昔は実験に用いられた事もあったという噂も聞く。 

そういった犠牲の上に、今日の平和が築かれている。

そして僕は、しまなみというカヤックにとっては申し分ない最高のフィールドで遊ばせてもらっている事を、心からありがたく思う。


正午、改めて離岸。 潮は追い潮。風も無く、絶好のパドリング日和。




漕がずとも、潮に乗ってグングンと進む。日本海側に住んでいると、干満差が殆ど無く、潮流を意識することもない。しかし、こうやって島々が浮かぶしまなみを漕ぐと、海は動いているということを実感する。 そして、潮流とは、川のように流れるのではなく、巨大な水の塊がのそりと動いていくといった感じである。


その水の塊に乗って、海峡を渡り、大三島西岸を南下する。 

気分は上々~!

潮に乗り、パドルはすこぶる軽い。 動力船の往来も無く、点在する島々を眺めながら、最高のロケーションを満喫した。

遠くに霞む四国を望み、いよいよ小さな島が飛び石の様に西に伸びる、とびしま海道の入り口が見えたところで休憩のために上陸。




海を旅していると、時々、どうしようもなく魅力的な浜に出会う事がある。 そして、休憩のために何気なく上陸した浜の隣にとっておきの場所を見つけてしまった。

東西両側に砂浜を持つ岬の先端部。潮が引けると砂浜が現れ、満ちると細い海の上の道となる。 朝日と夕陽を同時に見られる場所。 ここで一晩過ごしてみたいという誘惑にはとても勝てそうにない。

急遽、全員で海図を囲み、本日の行動可能範囲と、明日の本州上陸地のシュミレーションを始める。天気、潮汐表、潮流の流れ方向や強さ、時間、風、波。 海は陸の旅に比べて、より自然が複雑に絡み合うため、各自が持つ情報と経験を総動員してディスカッションする。


今回の旅は、滋賀県マキノにあるグランストリームのツアーであったが、ここのツアーの大きな特徴が、参加者主導であるということ。 極力参加者の意見を重視し、そこにあるリスクはしっかりとフォローしてくれる。 なので、ガイドに連れていってもらうという感覚はない。 衣食住全てが自己完結している旅。だからこそ、面白い!

ミーティングで、この浜を無視して先には進めないでしょ?ということで、全会一致。自由な海の民にして、旅人であるフェザークラフト乗りである我々は、今日はまだ10km程しか漕いでないにもかかわらず、荷を解くこととなった。





大崎上島にゆっくりと落ちていく太陽を眺めながら、僕達以外は誰もいない小さな島の砂浜で、ナッツをポリポリとかじりながら、まったりとした幸せの時間を過ごす。


漕ぎ進むも自由。とどまるも自由。誰のためでもなく、ただ自分が思うままに旅をする。 自由と奔放、そしてその裏側にあるリスク。 旅人のロマンが、カヤックの旅には全て詰まっていると、改めて思う。





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