NZL旅<DAY5>


フッと目が覚める。セットした目覚ましの時間までは、まだ幾分あるけれど、寝ながらにして無意識にハリケーンが気になっているようだ。恐る恐るカーテンを開けると、空は一面雲に覆われてはいるけど、雨は上がっている。

先ずは一安心。こんな寂れた何もない町での停滞はちょっと寂しすぎる。ましてや、金銭的事情とはいえ、けんちゃんとの相部屋なのだ。$3で買ったフリーwifiの電波も、やたらと不安定な上に弱い。

ここで連泊はないよな~っと、起きがけの一服でクラクラする頭をコーヒーで無理やり目覚めさせて、出発の支度をする。

最後のダートロードの可能性も、昨夜のハリケーンのニュースを見た時点で立ち消えている。ならば、余計にこんな寂しい町とは早々とおさらばして、今日は東へコマを進め、海を目指そう。



出発と時を同じくして、ポツリポツリと降りだした雨は、降ったり止んだりを繰り返している。牧草地を割って伸びる一本道をひたすら東を目指し走りつづける僕達の行く手に白乳色のガスが立ち込め始めた。緩やかに登っていく登攀路たどは思っていたけど、どうやら知らぬ間に雲の中に入ってしまったようだ。

どうりで寒いわけだ。次第にかじかむ指先を温めるため、グリップヒーターのスイッチを強にする。雲の中をオートバイで疾走するといえば聞こえはいいけど、実際は視界不良の中、ガスを割って突然現れる対向車に、ビクッ!!っと怯えながら、ガードレールのないタイトなワインディングロードを必死に走り続けるしかない。路肩がえらく狭いニュージーランドでは、小回りの効くオートバイですら、路肩に停めて休憩をすることがはばかられる。

それでも、時折ガスの切れ目から覗く草原には、数え切れない羊が放牧され、一様に草を喰む姿が愛らしくて癒される。


いくつかの小さな町を通り過ぎ、R85とR1が交わるパーマストンという町に辿り着いた。もう海も目と鼻の先だ。そしてこの町が、今回の旅の帰路の始まりとなる。


感傷的な気分に浸る僕の足元には、寸足らずな雨具から出たジーンズの裾。トレッキング用に以前買った物だけど、なんでこんなに短いんだろう・・・。 脚が伸びたか? 本来ならば、短い雨具のせいで膝下から靴にかけてずぶ濡れになるはずなのに、R1200GSの両側に張り出したシリンダーヘッドのおかげで、まったく濡れていないことに驚く。

少しの休憩の後、再び走り始めた僕達は、ほどなくして海に突き当たった。もうこれ以上東へ進む道はない。とうとうここからは、クライストチャーチへと続く帰路の始まりとなる。


この旅も、残すところあと2日となった。 旅の終わりを思うと少し切ないけど、だからこそ、最後の最後にオートバイのエンジンを切る瞬間まで、この旅を楽しまなければ。


南島を南北に縦断する幹線道路のR1を北へ向かう。途中、海岸沿いに並ぶ謎めいた半球状の巨岩が並ぶ、”モエラキ・ボルダー”に立ち寄るが、どうやら道を間違えたらしく、500m程南の海岸に出てしまったようだ。遠く向こうには、たしかに丸い岩が転がるように並んで見えてはいるけれど、僕達が立っている場所との間には、歩いて渡るには躊躇われるほどの川が横たっている。恐らく普段は枯れてる川なんだろうけど、ここ数日の雨で、かなりの水量が海へと注ぎ込んでいる。



相棒のけんちゃんは近くまで行きたそうだったけど、そんな観光地は、軟弱な観光客に任せればいい。俺たちはライダーなんだ。この自然にあふれた素晴らしい大地を、オートバイで旅するためにここにいるんだ。

っと、ホントは見てみたいんだけど、寸足らずな雨具からはみ出したジーンズも濡れちゃうし、あそこまで歩くのも邪魔くさいし、なにより、ここからでも一応見えてるわけだし・・・的な怠け心をお首にも出さず、ただ海を見つめる僕であった・・・。

あの水平線の先に、南極大陸がある。実際はまだまだ遥か遠いんだけど、南極大陸と今僕が立っているこの場所の間には、隔てるものは何もないんだと思うと、ロマンチストでエロティストな僕は、たまらずけんちゃんにカメラを渡し、いい感じのバックショットを要求するのだった。


こんな所まで来て、俺は何をやってんだ・・・(汗)


この日はそのままR1を北上し続け、オマルーで昼食をとり、そのままの勢いで旧市街が残る港町、ティマルに宿をとった。




夕食には肉が食いたいとの僕の要望で選んだ店が、これまたなんだかお洒落なお店で、今にも晩餐会が始まりそうな厳かな室内は、壁にそなえつけられた歴史を感じさせる暖炉があり、パチパチと薪の燃える音が心地よい。 そんな中、おっさん二人がグラスをあわせる ”チンッ♪” が響く。



多少雰囲気に酔っていたとはいえ、今思えば隨分気持ちの悪いツーショットである。

夕食をすませ、霧雨の舞う、人っ子ひとりいない街をそぞろ歩きながら、旅の充実感を噛みしめる僕であった。



つづく・・・。


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