NZL旅<DAY4>


夜中に屋根を激しく叩く雨に、何度か目が覚める。覚悟はしていたけど、やはり雨は本降りになっているようだ。”停滞”の文字が頭をよぎる。さて、どうしようか。まどろみの中、まとまらない思考がとぎれとぎれとなって、再び深い眠りの淵に落ちていった・・・。

旅もいよいよ折り返しの4日目の朝を迎える。

夜中に降り続いた雨は、どうやら小康状態を保っているようだ。少なくとも、雨で前が見えないって程ではない。

たしかに気持ちは晴れないけど、観光客に人気だからこそとは思うが、安宿が見つからないこの町を抜け出さないと、また今夜も高い宿代を支払わねばならないことになる。そして何より、この街は人が多すぎて、なんだか落ち着かない。

けんちゃんと話し合った結果、今日のゴールを決めるのはちょっと先送りして、とにかく東に向かうことにした。


クイーンズタウンに別れを告げて、カワラウ川に沿って走るギブソンHwyを東へと走り続ける。時折吹き付ける、谷を抜けてくる強風に肝を冷やしながら、降ったり止んだりを繰り返す冷たい雨をひたすら耐える。

と書くと、なんだか辛そうに聞こえるだけど、実はそうでもない。

水はけの良い、粗めのアスファルトのためか、タイヤはしっかりとグリップしてくれるので、走行に不安は無い。時折、対向車線を走る大型トラックが巻き上げる飛沫や、雨でも一向にスピードを緩めない地元のドライバーには驚くけど、それ以外はいたって平和なライディングだ。



薄雲に遮られた優しい光が川面を照らし、低い灌木がうっすらと覆う山肌は、見ていてまったく飽きない。そりゃ、晴れるに越したことはないけれど、雨にしっとりと包まれたニュージーランドの自然の風景も、これはこれで悪くないな・・・なんて思いながら走っていると、インカムから相棒けんちゃんの「チュッチュチュ~♪」が流れ始め、げんなりする。どうやら彼も、この雨の中のライドを楽しんでいるようで何よりだ・・・プチッ(インカムを切る音)


東へと走ること1時間余り。遠くにアレクサンドラの町並みが見えてきた。

町のメインストリート沿いにあるKFCでチキンを頬張りながら、これからのルートについて再び話し合う。



本当であれば、この町から東に大きく隆起した一枚岩のような台地を約100キロに渡って貫く”オールド・ダンスタン・ロード”というダート道に入り、無人の荒野のど真ん中で野営をするという、僕の中ではメインイベントと呼べるルートを走る予定だった。いわば、この日の為に、クソ重たいテントやシュラフなどの野営道具を、わざわざ10000キロ離れた日本から持ち込んだといっても過言ではない。

雨は小降りとは言え、頭上を覆う雲は、時間とともにその厚みを増し、雨足も気持ち強くなっている気がする。何より、僕達の行く手には、確実に大荒れが予想される真っ黒な雷雲が、ひたひたと近づいてきている。


万が一、避けるもののない荒野のど真ん中で、空から稲妻が落ちてきたら?

水はけの悪い岩盤に大量の雨が数時間降り注いだら、辺りは大洪水になるんじゃね?

そもそもこの天気で、ぬかるんだダートを100キロ走るってどうよ・・・?!


ハイ、退散~!!!


可及的速やかな撤退を、何のためらいもなく決断する僕達。

家族は、僕が外でカヤックやオートバイで無謀な旅をしてるんじゃないかといつも心配してくれているけど、悲しいかな相当のヘタレな僕は、絶対の安全マージンを確保するタイプだ。命をかけて遊ぶつもりなど毛頭ない。(まぁ、時々目測を見誤って、ドキッとすることはあるんだけど)




サクッと退散を決めた僕達は、それでも翌日の天気の回復に若干の期待を残しつつ、ダンゼイズ・パスを超えてダールトンに至る60キロの絶景ダートロード、”ダンゼイズ・パス・ロード”の起点となるランファーリーという町で、ゴキゲンな老夫婦が営むホリデーパークのロッジに宿を取り、荷を解いた。




この夜、僕たちは初めて、オセアニア地域を猛烈に襲うハリケーンのニュースを知り、TVに映るオーストラリアの目を覆うような惨状を目の当たりにすることになった。

そして恐ろしいことに、そのハリケーンは、徐々に僕達がいるニュージーランドに近づいているらしく、まだ旅半ばで相当の距離を残すクライストチャーチまでの道のりを思い、不安な夜を迎えることとなる。

っていうか、帰りの飛行機って、飛ぶんだよね?(;´∀`)


そんな不安をいだきながら、レストランも殆どない寂れた町で、スーパーで買い込んだ食材を調理するけんちゃんは、相変わらずののんびりモードでサラダを素手でこねくり回している。 っていうか、ちゃんと手を洗ってるんだよね? と問う僕に、あっ!って顔をしながらそそくさと手を洗い始める彼。


「だから・・・もう遅いだろがっ!!!」


憎めない男ではあるが『そのサラダ、俺は食わんぞ!!』っと、心のなかで決意する僕であった。



つづく・・・。


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