NZL旅<DAY6>
「どこへ行くんだい?」
「そうだな・・・多分今日はクライストチャーチかな。」
「そうか、俺もなんだよ。」
ホテルの前の小さい軒先で、パラパラと降る雨を避けて出発前の煙草をふかしていると、観光バスのドライバーが話しかけてくる。
そういえばこの旅では、いたるところで何度となく同じ会話を繰り返した。気さくなKiwi(ニュージーランド人の愛称)達は、とにかくいつもゴキゲンだ。特にマオリを祖先に持つ原住民の末裔たちは、それを誇らしげに僕に告げる。
なるほど、有史以来、単一民族である日本人にはわからない何かが、そこにはあるのだろうけど・・・
『そんな早口で話されても、何言ってんだかちっともわかんね~つ~の!!』
数日間程度の旅では、僕の英語力の飛躍的向上は望めない。
いよいよGoogle Mapsの行き先を、クライストチャーチにセットする日がやってきた。朝一の予報では、クライストチャーチは午後から晴れを示している。どうやら北から雨雲が切れていくようだ。それならば、今日中に一気にゴール近くまで進んでおこうと決めた。
ティマルを少し遅めに発った僕たちは、ひたすら退屈なR1を外れ、初日に暮れかかる空に追い立てられる様にたどりついたジェラルディーンへと向かう。
一度しか訪れたことがない町のはずなのに、なんだかやけに懐かしい。日本から遠く離れたこの国において、よもやこんな気持になるなんて。日々、無感覚を装って過ごしてはいるけど、僕の心はどこか緊張していたのかもしれない。だから、たった一日、殆ど通り過ぎただけのこの町に、郷愁に似た感情を抱くのかもしれない。
メインストリートと呼ぶにはちょっと大げさな通り沿いのオープンカフェの一角を陣取って、行き交う人々を見るとはなく眺める。こんな知らない町の、知らない人々(や犬)にも、当然のように生活があり、当たり前に毎日精一杯生きているんだと、なんだかしみじみと思うのは、ちょっと家が恋しくなっているのかもしれない。
感傷的な気分を断ち切るように、少し大げさにアクセルを煽り走り出す。
気がつけば、行く手を覆う雲の質が昨日までとは明らかに違う。薄く伸びて、今にも雲間から陽の光が大地を照らしそうだ。どうやらハリケーンはやり過ごしたようだ。
そう、まだ僕の旅は終わっていない。先ずはクライストチャーチだ。そして、まだ一日残っている。ギリギリまで、最後にエンジンを切るまでは、精一杯旅を楽しむと決めたんだ。
道は緩やかにカーブをくりかえし、風景はどこまでも美しい。決して日本では見ることのない素晴らしい景色にも、少し麻痺していたようだ。
メルヘンを絵に書いたような牧草地帯がどこまでも続き、僕はあらためて、初めての海外ツーリングにこの国を選んだ選択に間違いはなかったと確信した。
R72からR77に入る頃、いよいよ雲間から陽の光が僕達の行く先を照らし始めた。青い空を見るのは、3日振りだろうか。天気の回復と呼応するように、インカムから流れるけんちゃんの「チュッチュチュ~♪」も、この時ばかりはなんだか許せる気持ちになる・・・
訳ね~だろが!!! プチッ!(インカムを切る音)
午後2時をまわる頃、僕達はクライストチャーチ郊外のモーテルを、R1200GSと過ごす最後の宿と決め、荷を解くこととした。
シャワーを浴びて一息ついた僕は、別の部屋で午睡をかますけんちゃんを放置して、クライストチャーチの中心街へとオートバイを走らせる。
噂には聞いていたが、2011年にカンタベリー地方を襲った地震の爪痕は、想像を遥かに超えてこのクライストチャーチに残っていて、至る所に閉鎖されたままのビルが立ち残されている。 阪神大震災で当時西宮に住んでいて、地震の怖さを身をもって体験した僕は、とても他人事とは思えず、一日も早い復興を願わずにはいられなかった。
それでも、どこまでも明るく逞しく生きるKiwi達に元気をもらい、なんだかちょっと幸せな気分で宿に戻る。
クライストチャーチのサインボードを見た瞬間に、長旅の疲れが一気にでたのか、外食をする気になれない僕たちは、近所の中華系ファーストフードからテイクアウトした、なんだかわからない麺のあまりの不味さに辟易するけんちゃんを笑いながら、クソまずいバーガーにかじりつく。
この夜に見上げた空に昇る月がたまらなく美しく、煙草を何本か連続で灰にしながらも、飽きることなく眺め続けた。
つづく・・・。
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